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津地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決

原告 関口精一

被告 津市議会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「昭和三十三年三月二十六日津市議会において行われた同市選挙管理委員選挙における、皆川昭、樋口恒通、中西甚七の当選は無効である、荒井とのみ記された票は有効である、訴訟費用は被告の負担とする、」との判決を求め、その請求の原因として、

一、昭和三十三年三月二十六日午後三時半頃、津市定例議会において、市選挙管理委員並びに補充員各三名の選挙が行われ、三十四名の在席市議会議員が投票した結果、樋口恒通六票、木下四郎六票、中西甚七五票、大森甚一郎四票、今中恒雄三票、荒井瑞雄二票、大森四郎一票、無効三票なる票数である旨公表され、議長は上位者三名は市選挙管理委員に、その下位者三名は同補充員に、それぞれ当選した旨宣した。

二、然れども、(1)皆川昭は従前より引続き四日市市に居住し、津市選挙権者名簿に登載されておらず、(2)樋口恒通は津市の顧問弁護士で、市有財産に関する訴訟、調停事件を数年来独占的に委任される一方、市は法律相談並びに調停、訴訟等事件の報酬として、予算に金五万円を計上しているものであつて、形式上民法にいう委任である部分と、何人であつても提供し得る法律相談なる請負業務の部分との区別は明らかでないが、その実態は明らかに請負と解すべきものである。(3)中西甚七は三重県モータボート競走会の役員であつて、津市はその運営費用一切、即ち津市営競艇売上金の四%(金三百万円)を毎年中西甚七に交付し、競艇の実務一切を請負わしめている。

三、前記選挙において無効と判定された票が三票あつたが、そのうち二票には荒井とのみ記載されてあつた。然しこれは荒井瑞雄を指すものであることは、昭和三十三年三月十二日行われた津市議会議員全員協議会の協議結果に徴して明らかである。よつて右荒井とのみ記載された二票は荒井瑞雄の得票として有効であり、従つて荒井瑞雄の得票は合計四票となるから、荒井瑞雄は津市選挙管理委員の補充員として当選すべきものである。

四、以上の如く、皆川昭、樋口恒通、中西甚七の当選は法令に違反したものであるから無効であり、荒井瑞雄の得票二票は有効である。よつて原告は津市議会議員として、右投票の効力に関し異議があつたので津市議会議長が右選挙の結果宣告の直後、次議題上程の直前、地方自治法第一一八条第一項に基く異議を述べるべく、地方自治法、津市議会議事規則並びに慣例に従い、異議申立の意思を以つて、「議長六番」と挙手呼号して、正規の発言を求めたところ、議長はこれに気付き、暫時原告を凝視したが、その時事務局長伊庭半蔵が直ちに立上つて議長に耳打ちしたため、議長は原告の要求を無視して次の議題に進行したものである。

五、よつて原告は昭和三十三年四月十七日三重県知事に対し訴願したところ、同年七月十七日三重県総務部長より、法定期間内に裁決することは不可能になつた旨通知を受けた。

六、右の次第につき、請求の趣旨同旨の判決を求めるため行政事件訴訟特例法第二条但書に基き本訴請求に及んだ。

と述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の主張として、本訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、その理由として、本訴は、地方自治法第一一八条第一項後段により、投票の効力に関し、当該議会に異議を申立てたこと、右異議に対し議会が何らかの決定をなしたこと、右決定に対し不服ある者が県知事に訴願したこと、その裁決に対して不服ある者が二十一日以内に裁判所に訴を提起すること、という段階手続を経なければならない。然るに原告は原告主張の選挙の際何等異議を申立てなかつた。従つて被告議会も何等決定をしておらない。かような次第であるから原告の県知事に対する訴願も亦本件訴も共に不適法である。なお原告は「議長六番」と発言したと主張するが、その事実は否認する。仮りに原告が「議長六番」と発言した事実があつたとしても、右発言を以つて地方自治法第一一八条第一項後段に規定する投票の効力に関する異議申立とみなすことはできない。と述べた。

当事者双方の立証並びに認否〈省略〉

理由

昭和三十三年三月二十六日津市議会において、原告主張の如き選挙が行われたことは、被告が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、被告においてこれを自白したものとみなすべきものとする。

原告は、右選挙における投票の効力に関し異議を述べる意図を以つて「議長六番」と挙手呼号して、議長に発言の許可を求めたが、議長はこれを無視して原告に発言の機会を与えなかつた、と主張する。原告の右主張事実は被告において争うところであるが、仮りに原告の主張する事実がすべて真実であつたとしても、原告がなした「議長六番」という発言だけでは、異議の意思表示であることが明らかでないから、地方自治法第一一八条第一項後段の異議を述べたことにはならない。地方自治法第一一八条第五項の訴は、議員が議会において適法に異議を述べたこと、これに対して議会が決定したこと、議会の決定に対して訴願裁決を経たことを前提とする。然るに前記の如く原告の発言は、同条第一項後段の異議の申立と認めることができず、そして又津市議会が原告の発言に対して何等決定をしていないことは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、原告の本訴は不適法として却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 西岡悌次 露木靖郎)

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